魑魅魍魎の菊
気がついたらマンションに辿り着いていて——
ふと目に入るのは、美鈴が花壇で育てていた花達。ゆらりと儚げに揺れる姿に思わず泣いてしまいそうになってしまう。
(——美鈴っ…)
名を呼んでも、手を伸ばしても、そこには温もりが無いんだ。
思わず屈んで目元を手で覆ってしまう。涙なんか流してたまるか…
嫌な事を全て忘れてしまいたい。瞳の奥に焼き付いた美鈴が消えた瞬間。蟒蛇が爆ぜた瞬間。
俺は何も出来なかった。ただただ——呆然としていることだけしかなかった。
「——馬鹿野郎、」
その瞬間、夏の蒸せた風ではなくて…冷たい風が吹いたのだ。
(——あ"ぁ?)
「俺に何か用かよ、」
背後に佇んでいた幽霊へと俺は睨みつけた。いつも幽霊が近くに来ると、気味の悪い肌寒さに襲われるんだよ。
「——加藤」
「…萩っち…」
朧気に呟く加藤は情けなく眉を下げ、泣きそうになっている龍星を見つめた。
「美鈴っちが——
取り戻せるかもしれない」
悪魔にも似た囁きが耳元をくすぐる。