魑魅魍魎の菊
(——白い、ワンピース)
ふと、会釈されすれ違った人は墓参りなどに背かない白いワンピースを着ていた。大きな麦わら帽子のせいで顔こそは見えなかったが、黄色の菊の花束を抱えていた。
正影たち玖珂家は5年前に亡くなった母・麗子の墓参りに来ていたのだ。彼女の死因は癌だった。最初こそ市太郎は物の怪の仕業かと睨んでいたが、やはりただの癌だったらしい。
(——麗子、君は死んでも綺麗だから僕は心配だよ)
眉を下げながら市太郎は彼女の好きだった薔薇の花を持っていた。
そして、丘の向こうにある墓石には麗子がセクシーに座っており……朧げに一本の菊の花を見つめていた。
「お母さん!!お久しぶりだねー!!」
母親の姿を見つけた春菜は紺色のワンピースを揺らしながら走ったのだ。その姿を微笑ましく見つめる玖珂家の物の怪達。
「春菜!久しぶりねー!!またまた綺麗になっちゃって」
「そんなことないよ〜」
いや、そんなことはある。と天狐の千影は心底思ったらしい。
「母さん、久しぶり」
俺は久しぶりに会った母さんに頬の筋肉を緩ました。——最近は"あの地味女"のせいで色々と疲れたせいか、なんだか母さんに会えて嬉しい。
「——あら、市太郎みたいに男前になってきたじゃないの正影」
「こらっ、麗子。邪な目で成長過程を見つめない」
「でも、身長は大分伸びたわね」
俺の横に立ってみる母さんは嬉しそうに笑うのだ。その姿を見て、幸せそうに笑う父さん。
と、その瞬間——
眼の奥に「高村 菊花」の姿の映像が流れ出したのだ。歪んだ、狂気…が孕む、そんな予感がする。