魑魅魍魎の菊
妖精たちの素敵な宴
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井上穂積は目の前の光景にただ純粋に目を見開かせた。
「悪ぃな、こんな時間に」
穂積の家の前にライダースーツを格好良く着こなした萩原龍星がいたのだ。息は荒く、違法なスピードで運転してきたのだろうとぼんやりと思ってしまった。
「そりゃあ——夜中の12時にこられたらね」
穂積は苦笑しながら、家の中に龍星を招きいれた。
「一体こんな時間にどうしたの?」
「——井上に相談があってな」
穂積は台所で緑茶を煎れ、龍星に差し出した。温かい蒸気にどこか心の安らぎを覚えた龍星は切り出したのだ。
「で、僕に相談って?恋愛相談とか無理だからね?」
「俺どんなけ必死にお前に相談なんだよ」
(……こんな広い家に一人しか、いないのか)
井上の家は豪邸といっても過言ではないぐらい広い。まるで洋館である。だが、奇妙な雰囲気が漂っている。
立地もあるかもしれない。街の外れにあるせいか巷ではあまり良い噂を聞かない。
(今はんなこと関係、ねぇか……)
俺は小さく上を仰いだ。
「——井上。玖珂と高村を止めようと、思わねぇか」
耳を塞いで、膝を抱えてもこれだけは避けられねぇんじゃないか。井上の茶色の瞳が大きく見開かれ、微かに長い睫毛を揺らした。
「それって——正気?」
「正気も何も俺は大真面目だ。美鈴を取り戻す為なら何でもする」
「……でも、美鈴ちゃんは——」
井上は途中で言葉を濁し、俺の瞳を真摯に見つめる。言いたいことは解る、あの時確実に美鈴は爆ぜたんだ。