魑魅魍魎の菊
僕は瞳に影を落としながら12時15分の空間にたゆたった。
勿論僕だって、玖珂君と菊花先輩のことをなんとかしたい。
あれから考えあぐねた。
この虚無が広がる家で考えた。
(——それでも良い案なんて浮かばなかった)
穂積は紅茶を飲み込んで、龍星の瞳をじっと見つめた。
「——明日、玖珂の所に乗り込む」
「えっ。何そのノープラン……」
「根拠はあるっつうの!!」
その瞬間。穂積のブレスレットが光だした!
「——俺は反対だぞ、穂積」
「さ、サラマンダー?」
「私も反対よ」
「ウンディーネ?!」
穂積の周りに炎を纏った蜥蜴と水を纏う魚が現れたのだ。龍星は思い出したように「こいつら…高村を嫌っていたな」と呟いた。
「……あの女は"禁忌"を従えている」
「それって、あのクソむかつく人造人間か」
苦虫を潰したように龍星は言葉を吐き出し、眉を寄せた。一層悪人面になったのは言うまでもない。
「あの女——高村菊花が居るかぎり、穂積の存在が脅かされ続けるんだ」
「はあ……?」
豪邸という名の"牢獄"に一人の少年は閉じ込められ、一人の男の間抜けな声が響き渡ったのだ。
きらびやかな食器、絵、建築——
それは見せかけのものだった。こんなものがあっても誰も助からない。
(——余計なことばかり、)
穂積の心に静かに小さな闇が落ちた。