魑魅魍魎の菊
「……ニンゲンさん達よ、アンタら…欲張りすぎだ」
「それが本来の人間の姿です、スザクさん」
穂積がそう返せば、スザクは「違いねぇ」と笑うだけだった。
「しっかし…内部事情を洩らすわけじゃないが、高村菊花の所在は未だ掴めていない。"大槻"の事件の後、あいつに神狩りされた神が何故か復活している」
「……復活、」
おぼろげに龍星が言葉を漏らしたとき、ふと幽霊の加藤の言葉が過ぎった。
(……実体をもつ、幻)
「なあ、スザク。全て"幻"ということはあり得ないか?」
「"全て"?」
龍星の中でとある「真理」に辿りつけそうになっていた。
…実体をもつ幻、以前玖珂から聞いた「地獄へ行かなかった菊花」、とある派閥……。
とてつもない組織が絡んでいそうな雰囲気。あの、蛇の姿の女。
「…全てが幻、ねぇ…。俺も技で使えなくはないけど、全てが幻だと『偽』になってしまう」
「偽…?それはどういうことですか?」
龍星は答えた。
「全てが幻だと、使う本人までが"無い"ということになるんじゃないか。全てが嘘になって、真実が無くなってしまうことだろう?」
「そうだ金髪君。物事には真実や真理がなければ成り立たない。たとえ、か細い光のようだとしても。……結局、全てが疑心暗鬼になって疑い続けていても、自分というものだけは信じている」
…つまり、疑っているという自分を疑っていないようなものだ。