魑魅魍魎の菊
「な~んだ、外したか」
頭上から聞こえた声に肝が冷えた。正影は菊花を抱えながら、恐る恐る声の方を向いた。
「……貴様、ちゃんと喋れるじゃネェか」
「僕を買い被りすぎだよ、玖珂の若頭。見えるものが全てじゃない」
墓石の上で擬人化をした狐――福丸が弓矢を構え、冷たい表情を浮かべていた。
「テメェ、さっきの馬鹿っぽい喋り方はどうした…」
「麗子様に可愛がってためだよ。可愛かったでしょう?」
「人の母親に色目を使うな!立派な既婚者だっつうの」
「駄目だよ。玖珂の若頭、麗子様は僕が娶るの!」
…どうしてだ。菊花の呼吸が聞こえてこない。今、無理に矢を抜いてしまえば出欠多量になってしまう。
(…誰か、気づけ!)
「お前、一体どこの組のもんだ」
「僕はどこにも属していない。強いて言うなら、そこの"バカ"の同僚ってとこだよ」
狐は楽しそうに笑い、もう一度弓を構える。
「……狙いはなんだ。貴様が菊花を殺すメリットが見つからない」
「メリットなら、玖珂家側にあるでしょうに。ここの夥しい百鬼夜行を一気に潰すことができる。僕としては、惜しい人材を"失くした"」
"失くした"だと…?
奇妙な発言に正影は顔を顰め、片手で式神を構えた。