魑魅魍魎の菊
「面白いじゃねぇか」
「は、萩原君!面白がっている場合じゃないよ!こ、これじゃあ…手がかりがないんだよ?!」
言葉のとおり、高村と書かれた家は鍵がかかっておらず、部屋の中には何もなかったのだ。
――そう…何もだ。
龍星は靴を脱ぎながら、意地の悪い笑みを浮かべた。その笑みを垣間見た穂積としては嫌な予感しかしないのだった。
「…おいおい井上、テメェは頭は良いがわかっちゃいねぇな」
「…ど、どういうこと?」
高村菊花の部屋は四畳半。
寂れて、物悲しく、何も思い入れもない、何も感じなかった。
(……あぁ、なんだろうか)
「タイミングが良すぎるとは思わねぇか」
「タイミング?」
二人はぐるりと見渡し、窓辺へと移動する。窓からは辛うじて外の光が入る。入るが陰湿な印象には変わりない。
「高村が消え、美鈴が消えた。そして、玖珂の陰陽師や物の怪が血眼になって探している。そして俺達も色々と探っている――
――あの女がこの展開を読めないはずがねぇだろう」
(…あの女は事の顛末をわかっている)
わかっているからこそ、消えたのではないか。