魑魅魍魎の菊
形勢逆転と夜行さん
薄らと自分の首筋から血が流れたような気がした。
初めて生命の危機を感じた瞬間でもあった。
「ここらの地は全て俺の結界が張り巡らせてあるんだ。俺が解放の身になればお前の奇怪な術は通用しねぇ」
(嵌められたんだ——!)
今更ながらも自分がこの罠に陥っていることに気がついた。最初から終わっていたんじゃないの…。
崩れている体に何故か力が入らない。陣を切ったはずの指が動いてくれない。ズタズタに自分のプライドさえも崩されたような気がした。
「さぁ立てよ——最後まで地獄を見せてやる」
耳元に聞こえた声にゾクリとしてしまった。きっと、誰も助けに来れないだろう。
噂に聞いていた「玖珂の若頭」の力を相当舐めてかかっていた。初対面で私の正体に気がつけない"ただの馬鹿"としか思っていなかった。
——もう、自暴自棄になってやる。
蛇帯の叫び声が耳に残りながら、菊花は咄嗟に刀を震える手で握りながら素早く距離を取った。
「女にしてはその瞬発力は凄いな」
「…女性蔑視で訴えるわよ、」
「ほうやっぱり人間か?百鬼夜行の頭が実は人間だっただなんて滑稽だ」
「末裔まで轟く予定だからヨロシク」
菊花は口に刀を銜え直した。
片手が使えないんじゃ、体術と混ぜるしかない。
(もう生きる残る術がこれしかないなら、賭けてやろう)
菊花の放り投げた時計が炎によりゆらゆらとその光を反射させる。