魑魅魍魎の菊
「あの後は颯爽と帰ってたぜ」
「な、何故滅されなかったのですか?!」
荒立つ白を俺がまた制すれば、「…すいません」と謝られた。
多くの物の怪からこんな質問をされるが…俺だって一日考えたのだ、どうして自分でも滅せれなかったのかと。
「…あの最後の弱っていた瞬間にもう一度、なせれば…」
「何でだろうな。——俺も手が出せなかった」
「若殿?!…な、何故です…鏡子を——」
「だがな、あっちも"人間"なんだよ」
そう、夜通しで考えた結果。あの女が《人間》だったからなのだ。
「俺も人間、あの女も人間。…物の怪と"人間"とじゃ、違うんだよ」
そう——人間と違うんだ。あの女を殺すことなんて、出来ないんだよ。
俺の仕事は妖怪退治やその他諸々とあるが…
「人間を殺すことは仕事に入ってねぇんだ」
「入っていたら良いんですか?!言っていることが矛盾なさっていますよ!」
「……確かに矛盾しているが、あの女も何やら事情を抱えているらしい。その件については親父や他の上層部と相談する」
そこまで言ってしまえば、白も押し黙ってしまう。悔しそうに唇を噛み締め、拳をぎゅっと握りしめて我慢しているのだ。
…悪ィな白。許せない気持ちも解るが、あの女の——頭を下げる姿が酷く頭にこびり付く。
そして、昨日滅しようとした時の高らかな宣言と覚悟。普通の女子高生があんな度胸を持ち合わせているわけがない。
その時俺は確かに「統べる者の気」を感じてしまった。気高い、そう——まるで菊の花のように高貴な感じ…