赤い筆箱

Dear mama

お母さん・・・私はもうずっと貴方をお母さんと呼ぶことが無かったね。私は沢山のお金や高価な物じゃなくて、ただ抱きしめて欲しかった。夜の仕事へ出かけて行き、テーブルに置かれた冷めた食事と小さな私には広すぎる部屋の余りに冷たい空気や静寂が怖くて、いつだって、何日お母さんが帰ってこなくても、食べ物が無くなって、お風呂の入れ方も判らなくて、どうしていいか判らず、ひたすらお母さんが帰ってくるのを待ち続けてた。
例えお母さんが暴力を振るっても何をしても何を言われても、一度でいいから「ごめんね。」そう言って抱きしめて欲しかった。もう何かに期待などしないと誓っても、心の奥で大きな期待をしていたんだよ。「今度こそ」何度も何度も・・・親子なんだから・・・でもね叶うことは無かったよね。
私はお母さんのくれる愛情を受け入れられなかったし、お母さんも私の愛情は受け入れられなかったもんね。歩み寄ろうとしてもできなくて

私は親不孝かな?私なりに精一杯出来る限りのことをしたつもりだよ。貴方を愛していたから・・・でも私の精一杯はきっと届かなかったんだね、だから今互いが何処で何をし何を思い生きているのか判らない・・・家族は壊れてしまったんだね。
ごめんねお母さん、お母さんの望むような子供になれなくてゴメンネ。
私はもっと違う目には見えない愛情が欲しかったから、これから自分でそれを掴みに行くんだ。
あなたが小学校の入学のとき買ってくれた赤い皮の筆箱・・・皆が持っているアニメのキャラクターの筆箱が欲しかったけど、今はね、赤い皮の筆箱のが高価でそれがあなたの愛情だと思っています。
さようなら、おかあさん。

 これが渡すことなくゴミ箱に捨てられた母に書いた最後の手紙だった。
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