赤い筆箱

彼女と私

母は私が3歳と少しの時に離婚した。
ある晩赤く大きな月が出ていた夜の事だった、月は本当に赤く、丸く、大きかった私は今でもその月を見るたびにその夜のことを思い出す。

その夜2Kのアパートの一室では嵐が起きているようだった、物が飛び交い罵声が飛び交っていた、母は私を連れ夜中の静寂の中をひたすら真っ直ぐに歩いた。

私は何度も振り返った、お父さん お父さん お父さん
母と私はタクシーに乗りある街に向かった、その街は母が水商売をしている街だった真夜中なのに街は活気づき不思議なほど明るかった。

私はマンションの一室に連れて行かれた。託児所・・・決してそうは呼べぬ所だった
そこに母は私を預けて出て行ってしまった。冷たい鉄のドアに耳を押し付けて母のハイヒールの音を必死で追い求めたしかしその音はやがて静寂の中に消えていった。

グイッと髪を掴まれて後ろに投げ飛ばされた。一瞬何が起きたのか解らなかったが私はキッチンの食卓用のテーブルに叩きつけられた。これが初めての虐待・・・その始まりに過ぎなかった。

そこには子供が他に4~5人住んでいた、皆部屋の隅で身を硬くして固まっていた。
この子達も虐待を受けていたのだろう・・・

私はその日嫌というほど髪の毛を引きづりまわされたり水を張った洗面器に顔をおしつけられたりされた、言えば身体に傷が残らない虐待だった。
 「ここに住むのなら私に楯突くんじゃないよ、少しでもなにかやらかしたら又同じ事をするからね」小母さんは言った。


部屋の隅では相変わらず子供が固まっている、涙を必死にこらえている子もいた、皆震えていた、そして生気の無い目でこちらをじっと見つめていた。「何見てるんだ」小母さんは子供らのところへ行き子供らを蹴っ飛ばした。


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