赤い筆箱
それでも興奮したまま泣き叫び続ける私を主人は必死に抱き寄せ宥めた。
「大丈夫。大丈夫だよ」
でも、その時私は主人を振り払い、主人を認識できなくなっていた。
主人は初めて見る私の姿に、言葉に行動に驚きを隠せなかったという。
自分の目の前にいるのが妻なのか?別人か?そう思ったと言っていた。
そしてこの日をさかえに私は母を彼女と呼ぶようになった。心が壊れた日。
私は二十年に及ぶ、隠し続けてきた怒りや悲しみという感情の張り詰めた糸が切れてしまったのだ。なんとか切れぬよう繋いでいた糸が・・・
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