鴉《短》
「真柴、よくここには来るのか?」
にこにこにこ。
笑顔を崩さずにそう聞いてきた横山に、頷く。
やはりあの大きなファイルが、机の上には置かれていて、それが自棄に目についた。
「真柴は、就職なんだよな?」
「…はい」
「どうして?」
「……早く、自立したいからです」
なるべく顔が引き攣らないように注意しながら、そう答えた。
そっか、とポツリと呟いた横山は、静かに息を吐いた。
「親御さんは、それでいいって言ってるの?」
この、質問に。
不覚にも、私は一瞬固まってしまった。
親御さん、という言葉で
昨日の夜の、怒りに歪んだ母の顔を思い出してしまったからだ。
一気に、額に汗が吹き出る。
口をパクパクさせる私に、横山は柔らかな声で言った。
「……色んな家庭が、あるんだよな」