鴉《短》


くりくりした瞳が、私を真っ直ぐに見る。


「家庭の事情でどうしても、っていう事もある。

そこは俺ら教師じゃ……正直どうにもできないことでもあるんだ。だけど、」


横山はそこで、視線を机の上で握った掌に落とした。

「親も所詮さ、一人の人間なんだよ。

いま自分が生きるために、必要な存在っていうか」

眉を寄せて首を傾げる私に、横山は、うん、と頷いて。

「こういう言い方はおかしいんかもしれないんだけど、自分の将来を考えたときにはさ、それを利用してもいいと、俺は思うんだ」

「……利用?」

横山は、頷く。

「金の面で、とかね。どうしてもここがいいから!って泣き倒しするとか。例えばちょっとぐらい騙してもいいと思うし…まあ、あんまりいい方法じゃないけど」

真顔で言われたその言葉に、思わず噴出す。

……滅茶苦茶だ、この人。
横山もまた、目を細めた。

「……真柴はさ、金が絡むっていうことに引っかかってんの?」

急にきかれて、また反応が遅れる。
真っ直ぐな瞳が、私を射抜く。

…どうしてなのか、この人の前では、使い慣れた嘘を心に貼り付けることが出来なくなってしまう。


その、空気に。
まなざしに。

隠そうとした本心が、激しく動き出し、殻を破ってしまう。

私はもう、半ば開き直り、口を開いた。


「……親と、あまり上手くいっていなくて。

お金の面でも、私の進学の為に負担をかけてしまうのは申し訳なくて。


それで……もう、家を出て自分で稼いで生きて行ったほうがいいのかな、って」


…それは、正直な。


本当に正直な、私の答えだった。
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