鴉《短》


横山は、なるほど、と小さく頷くと、暫く顎を指で摘み黙り込んだ。

沈黙が、流れる。

私は、自分が言ってしまったことを心底後悔した。

重い話だったんじゃないか。
困らせてしまったんじゃないか。

また、あの教員が言っていたような言葉を、かけられるだけではないのか。



……しかし、返ってきたのは

「うん。確かに、分かり合えなくてもいいんじゃないかな」

そんな、言葉で。

目を見開いた私に、横山は笑った。

「教師らしくないこと言うかもしれないけどさ、さっき、所詮親もひとりの人間って言ったじゃん。つまり、そういう事だと思うんだ。

ひとりひとり違う人間で、違う考えがあってさ。

すれ違いがあって当たり前だと思うんだ。完全に分かり合うなんて無理だ、って」

だから、と横山は続けて。

「無理してそれに付き合うことも無いし。割り切ることも必要かな、って」


そこでひとつ息を吐いて、穏やかな笑顔を向けてきた。

「……大事なのは、自分の幸せを考えて、後悔しない選択をすることじゃないのかな。

だって、一度きりの自分の人生だしさ、誰かのせいでそれを削るのは、凄く勿体ないっつーかさ。

それが、親でもね」


ぽかん、と呆けて口を開けたままの私に、横山は恥ずかしそうに頭を掻いた。


そして

まあ頑張れ、たくさん悩め、と笑って。

私は思わず、吹いてしまった。





……ほんと、なんて滅茶苦茶な人なんだろう。
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