鴉《短》

「また、何かあったら来いよ。俺、厚津山先生に代わって水曜日の当番になったんだ」

そう言って、ドアの前で手を振る横山に、私も笑顔で手を振った。






昨日と同じ道を、同じ歩調で、家へと歩く。

横山の言葉が、胸に響く。

―分かり合えなくても、いいんじゃないかな―

…それは、道徳の教科書に載っている言葉では無かった。

息をついて立ち止まり、本当の自分と向き合ってみる。


…私はずっと、その「絆」に縛られていたのかもしれない。

血のつながり。
あるべき姿。

ずっと、それに足を取られていたのかもしれない。

こうでなければいけないと。
親である母親との関係が、清く正しいもので、ありたくて。

ずっとそんな薄っぺらいものに、捕らわれていただけなのかもしれない。


見つめるべきものは
もっと別のところに、あるのかもしれない。


………そういえば、母から解放される以外の「自分の幸せ」なんて、もう随分前から、考えるだけ無駄だと思っていた。


私はどうせ価値が無い人間なんだから、早く消えてしまったほうがいい、と。



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