僕だけの瑠璃色
私から見える清美さんは、後ろ姿だけ。



きっちりと後ろで一つに縛った長い髪。

真っ黒なスーツ。

ピンと伸びた背筋。



後ろ姿だけでも判断できる、出来る女、真面目な女って感じ。


後ろ姿だけじゃ、ママに似てるとは言い難いわね。

聞いた感じ、そんなに声も似てるわけじゃないし。




「…………えー、と」


「……男一人暮しで、家事、大変ではないんですか?」


「………え、」




あ、清美さんから振ってくれたわ。
チャンスよパパ。ここで面白いこと言わないと。

また背伸びをすると、あのへらりとしたパパ笑顔が見えた。




「そうでもないんですよ。あんまり上手ではないんですが、家事も家事で楽しいし…」


「……楽しい?」


「あ、でも本当はいつもこんなに綺麗にしてないんですよ~…だから汚いって怒られちゃいます…はは」


「よく、誰かいらっしゃるんですか…?」


「あ、はい、身内が…。よく叱られるんですよね」


「………身内」







あ、ちょっとずつだけど会話が繋がって来たわ。

あまりの重い空気に潰れてしまいそうだったけど、なんとか持ち直したみたいね。

でも、パパったら、喋り過ぎないといいけど。




「それに、元々、男一人暮しじゃないので…」


「………あ、そ、そうでしたよね…」







あ、やばいわ。清美さんが気を使ってる。

気まずそうに、顔を伏せた瞬間、ほんの少しだけ顔が見えた。

うーん、ママと似てるけど、やっぱりなんか違うような…でもやっぱりなんか似てるわ。



「す、すみません…失礼なことお聞きしてしまって…。お気を悪くされたかと…」


「…え?き、清美さん?……あ、大丈夫ですよ!4年前の話なんで…!」


「え、4年前…?」


「はい…妻が死んでもう4年目なので」


「え、妻…………」



清美さんは暫く考えた後に、首を横に振った。




「そ、そうでしたね…奥さんがいらっしゃったと…部長からお聞きしました。そうですか……奥さんのことですか…」


「そ、そうなんです…」













この二人、会って数分でなんつー話をしてるのかしら。

空気も重いけど、話も重いわよ。



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