燕と石と、山の鳥
『司馬高の狐』ってのはどっかのガラの悪い連中が司馬高に通う俺に勝手につけた呼び名だ。

つっかかってくる奴らを片っ端からのしてたらいつの間にかそんな立ち位置にされちまった。



昔から目付きが悪かったせいか、悪者扱いされる事が多くて、何もしてねぇのに何かあるとすぐ俺のせいになったから、中学、高校と喧嘩に強くなっていくうちに周りの目から俺は不良扱いされるようになった。




「おーい親父」


店の横に付けてあるトラックの後ろにいる親父に声をかける。
ひょいと顔を上げた親父は相変わらず「浅水酒屋(アサミサカヤ)」のエプロンを巻いて気難しそうに眉間にシワを寄せたまま「おぅ」とだけ言ってまた作業を再開する。


俺も親父の横に立つと酒瓶のぎっしり入った箱を持って店内に置き、また箱を取りに行っては店内へと往復を繰り返した。


















ふと、





「…………あ?」






何回目かの店から出てトラックへ向かう折、はす向かいの文具屋の前に人影があった。
思わず目に止まったのはそいつの方から視線を感じたからだ。

遠目にもくっきりとした黒髪でパーカーのTシャツと膝下のズボンに着られているような格好の小柄な奴だった。

顔は…………




「………………………狐?」


「紺!何ボサッとしてる」

「あー今行く!」






親父の声に気を取られた一瞬後には、その人影は消えていた。

近所の奴じゃないだろう。

あんな変わった奴がいたら覚えているだろうし。












運び出しが終わって学校に行こうとすると、入った品をチェックする親父の「神棚」というぼやきによって引き止められ、俺は店内の奥にある神棚に向かう。

神棚を見上げると鏡を挟むように神棚の両端に置かれた狐の置物と目があった気がしたが、構わず目をつぶり手を合わせ、3秒頭ん中で数えて目を開け家を出た。



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