燕と石と、山の鳥
その犬男の牙にかかったのは、梨里子でも、ましてやとっさに梨里子の前に両手を広げて立ちはだかった俺でもなかった。
グルルルル…
「まったく…浅水さんせめてもっと妹さんの近くに駆け込んで下さいよー…」
「芹緒!?」
目前まで俺に迫っていた男の前に滑り込むようにして芹緒が左腕を牙にさらしていた。
俺より一回りも二回りも細い白い腕から紅い紅い血液が滴り落ちる。
「さぁて…浅水さんには別の役をお願いしたいんですよ。
斬るのはいつの時も僕達の役割です。
後ろでしばらく妹さんを安心させてあげてください」
「でもお前…腕が…」
ミシィ…ッ
「早くさがって…!」
牙の食い込む腕から聞こえた不気味な音に芹緒が苦しげに、しかし強い調子で言われ、俺はしかたなく身を引く。
梨里子はあまりの事態についていけなかったようで、気を失って倒れていた。
呼吸なんかを確認したが、異常はなさそうだったため、俺は安堵の息を吐いた。
芹緒達の方に目を戻すと、牙が食い込み続ける芹緒の足元には小さな血溜まりが出来ていた。
「今まで巷で殺されてきた女生徒はあなたの一方的な告白を断ったから殺された。というわけですね」
そこで芹緒は男の鼻面に右手をあてた。