燕と石と、山の鳥
「…あ……あ…………僕…」
小さなぼそぼそとした声にハッと気付くと、芹緒に斬られたはずの男は、無傷で自分の両手を眺めている。
「さぁ浅水さん。
ここから先は君のお役目ですよ」
いつの間にか剣をその手から消した芹緒が呑気な声音で俺に声をかけた。
「…は?」
「確かにここ最近の事件はあの人によるものですが犯行に至ったのは狗神に憑かれて負の念が助長されたのが主な原因であって彼自身はとても気弱で内向的なんでしょう。
あのままでは恐らく彼はまた魔に利用される。
少しでも心を前向きにさせるんです」
「んなこと……俺に言われても……」
「大丈夫ですよ」と重ねて言う芹緒の声があまりに揺らがなくて、思わず二の句が告げなくなる。
「彼の眼を真っ直ぐに見てあげて下さい。
そこから見える心に話しかけて下さい。
君にはその力がある」