燕と石と、山の鳥
「おい」
「ひぃっ…!」
後ずさる男の腕を掴んで引き寄せる。
なるほど、よく顔を見てみればこんな顔の奴何日か前に見たかも知れない。
見開かれた硝子玉みたいな瞳の奥で、何かが燻るように固まるように、小さく主張しているのが見えた。
「誰かに好きになってもらいてぇんなら、まずてめぇが誰かを好きになれ」
芹緒に言われた通り、その瞳の奥の燻りに語りかけるように集中する。
「一方的に付け回したって何も伝わらねぇし何もわからねぇ。
知ろうとしろ。
わかろうとしろ。
伝えようと思うのはそれからだ。
好きにもなってねぇくせに好きになってもらおうなんてフェアじゃねぇこと考えるんじゃねぇ。
好きになってほしいなら変わってみやがれ」
一言言うごとに凝り固まったものが解れて行く。
暗かった瞳に光が入る。
それは不思議な光景だった。
「…う…あ…あぁ…っ…僕…っ…!」
やがてかすれるような声で涙を溢れさせると、静かにその場で警察に連絡した。
「狗神は人が誰かを呪い殺す時に用いた呪法なんですよ。
四国によく伝わっているモノで、その筋の憑き物筋の家系もありますね。
犬を生きたまま地面に埋め、首から上だけ埋めずに、目の前に餌を置いて餌をやらずにおく。
そしてその犬の飢えがピークに来たところでその犬の首をはね、切った首を呪いたい相手の通り道に埋めておくんです」
帰り道、
目を覚まさない梨里子をおぶって歩く俺の横で解説する芹緒に俺は渋面をつくる。
なんつーか、グロい。