燕と石と、山の鳥
「方相氏?」

「えぇ、現代に伝わる節分の時期に行われる鬼やらいや追儺(ツイナ)と言った慣習の大元で、平安には疫病を象徴する邪鬼や疫鬼を払う大儺(タイナ)という宮中行事がありました。
その大儺の儀を執り行っていたのが方相氏です」


この鬼面はその儀式に用いられたものなんですよーととんでもないことを言う。

非常に胡散臭いが万が一本当ならそんなものを気軽につけてくるな。



「宮中行事としての大儺が廃れてしまってからは方相氏も歴史から姿を消しましたが、ひっそりとその役目を果たしながら現代まで血を繋げて来ているんです」




話を聞きながら腕の血を落としていた俺は思わず目を疑った。

あれだけ牙が深く食い込んでいた傷口が、塞がってきている。




「…妖怪と戦う事に特化した僕の一族は短命なかわりに自己治癒力に長けているんです」


俺の視線に気が付いた芹緒が柔らかく言う。

俺を気遣うような声音に我に返った。


作業を再開すると、芹緒も話を再開する。





「かつては人のすぐ近くにいた妖怪も、人が文明を切り開いてからは山に住み処を替え、人との交わりも希薄になりました。
それでも、妖怪は人の心理に敏感です。
時折人の負の念を嗅ぎ付けては人にとり憑くようになった。

僕達は、そういった妖怪を山に還すんです」
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