燕と石と、山の鳥
救急箱の中身を片付けながら、もろ手をあげて喜ぶ芹緒に呆れる。

面倒事にはもう慣れてる。
今更遠ざける気にもならなかった。






「それじゃあ浅水さん!」

「紺で良い」

「へ?」



素っ頓狂な声に、きっとこの面のしたでキョトンとした顔をしてるんだろうなと、ひそかに想像する。





「俺だって名前で呼んでんだ。
お前も名前で呼べば良い」


少しの間の後、芹緒はコホンと小さく咳をすると、右手を俺に差し出した。




「それでは、紺。
これからよろしくお願いします」


穏やかで、嬉しさを感じる温かな声に、俺も思わず破顔して、その手を取る。





「あぁ、よろしく」










こうして俺は日常の片隅で、非日常の戸を開けた。



<狗神編、了>
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