燕と石と、山の鳥
「大層、おおらかな御家柄なんですね…」
「そうか?どこもこんなもんじゃねえか?」
小声で呆れてるような、呆けてるような事を言う芹緒に同じように小声で返すと、「いくら僕でもこんな時分にこそこそお邪魔するのがこの現代常識だなんて信用しませんからね」と小声ながら低めの調子で早口に返してきた。
喫茶店での珈琲の件を引きずってるのか?
「おや、」
「あ?」
声を上げた芹緒の面越しの目線を追うと、ベッドに寝かされたままの人形。
すっかり忘れてた。
「あー…」
そのまま説明しても誤解が解けない気がする。
「…その様子だと、どうやら紺の意志で彼女をここに寝かせたわけではないようですね」
まずもって誤解をされていなかった。
ていうか、その声に何故落胆の色を帯びてやがる。
「うるせえな。んな趣味ねぇよ」
「そしてまだ全然特訓も進まないと」
確信的に落胆されてぐっと言葉につまる。
見透かされてる。
「まだ待たせるぜ。悪ぃな」
「それはお構いなく」
俺が構うんだよ。
「少しかかるかなぁ…」
どういうことだコラ。
聞き返そうと思った矢先、階下からお袋の声がした。
「…行くぞ」
「え、あの、ほんとに?」
「この期に及んで俺だけが下りてくわけあるかよ。ほら来い」
「…郷に入っては、なんとやら、ですか」
「そーそー」
自分がそう言って諦めることは何度もあったけど、まさかこんな風に言われて笑う日が来るとはな。