巡る巡る
その声が車内に響いて、
スカートの中を触っていた違和感を、
高山君が掴んでバッと上に挙げた。
「いい歳して痴漢なんかしてんじゃねぇぞ、オッサン!!」
見たことがない形相。
そんな彼を、ただ呆然と見つめていた。
駅に着いて、
その人は痴漢行為を認め
大人しく駅員さんに引き渡された。
あたしはずっと、俯いていることしかできなかった。
「……相沢……?」
そんなあたしを
彼が呼ぶ。
ゆっくりと顔を上げると、
そこには
表情を強ばらせた高山君がいた。
「…なんで…
すぐに言わねぇんだよ……?」
その表情が…
……怒ってる…っ。
「……ごめ…なさ、い…っ」
泣いちゃダメ。
こんな所で泣いたら、益々面倒臭い女。
霞む視界を隠すように、
あたしは再び下を向く。
「………ごめん。」
頭上から、
そんな声がして
あたしはハッとした様に顔を上げた。
「…すぐに気付いてやれなくて……、ごめんな……?」
苦しそうな声で
真剣な表情で
あたしの瞳を見つめる彼に
我慢していた
涙が溢れた。