お と う と 。
その父の一言が出たのは、珍しく10時前に帰ってきて、二人でテーブルを囲んで夕ご飯を食べている時。
今日の夕飯のメニューを何にしたらいいか迷って、適当にお父さんの好きな豚の角煮にしたのが功を喫したのだろうか。
のんきなことを考えながら白いご飯を掻き込んでいたら、お父さんが「話があるんだが」と切り出してきた。
「ん?」
「父さんな、再婚することにした」
「……は?」
いきなりだった。
あたしが何言ってんの?という顔をしたのは、正直あたりまえじゃないのかなと思う。
だって、お父さんの言い方はまるで、「そうしようと思っている女性がいるんだけど、どうしようか」ではなく、「再婚するんだけど、いいよな」という、明らかに、あたしの意見なんて聞こうとしていない言いぶりだったんだ。
そうして、ウソでしょうと思いながら見たお父さんの顔は、いかにも真剣そのものだったから、あたしは本当に再婚するつもりなんだと知って、狼狽した。
声が、どもった。
「ちょ、ちょっとお父さん?何それ、聞いてないけど」
「話す機会がなかったからな。だが、今言っただろう」
「今言ったって、」
「でな、実は今度の日曜日、その人とお前を合わせようとしてるんだ。いいな」
「いいなって、あたしバイトが入ってるんだけど」
「休みを取ってきなさい」