お と う と 。
「あの、奈津美さん、どうして此処に?」
「あら、義孝さんから聞いていないの?」
「……いいえ」
「……そう、てっきり知っているものだと思っていたわ、ごめんなさい」
彼女はすまなさそうにしたので、私は笑って「良いんですよ」と返した。
父さんの暴君ぶりは、今に始まった事ではないし、もはや慣れっこだ。
奈津美さんは、
「引っ越しの際に、お部屋をね、先に片づけておかないと、って義孝さんと話し合ったのよ。まだいろいろ残っているから、私たちのものと混同すると、ほら、沙耶ちゃんも困るもの、あるでしょ?」
「ああはい」
私は頷いた。奈津美さんと智也君はそれぞれ部屋が必要だといていたので、客間となっていた部屋を割り当てる事にしていたのだ。
智也君はともかく何故奈津美さんもかと言うと、仕事の都合上、欲が言えるなら個室が欲しかったのだという。
私と父さんよりも、その部屋を実際に使う智也君たちの方が、片づける方が効率がいいのかもしれない。