お と う と 。


奈津美さんは、そこで顔をしかめた。


「でも、こんな大事な事、義孝さん言わなかったのね」

「あ、でも、いつもの事だし」

「そんなのは駄目よ沙耶ちゃん」


奈津美さんは私をしっかりと見つめた。


始めて見る、彼女の厳しい顔で、私はちょっと戸惑う。


「私が一緒に暮らし始めたら、そんな事はさせないようにするからね?沙耶ちゃんが可哀そうだよ。

……あら、もしかしてこれ、夕飯?」

「はい、作ろうと思って」

「ごめんなさい、沙耶ちゃんバイトだって言っていたから、私、疲れてるかしらと思って先に作ってたの。もったいないことしたわね」


ああ道理で。私は台所から流れて来るシチューの匂いに、ようやく納得した。


「いいえ、明日作れば良いですから」

「そう?本当にごめんなさい。そろそろ出来るから、智也、呼んで来てもらっていい?」

「はい」

スーパーの袋を持ち、にこやかに台所に去っていく奈津美さん。


その姿にほっこりとした幸せのようなものを感じながら、でも、一抹の不安のようなものも抱いて、私は二階に上がった。

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