お と う と 。


「そんないきなり」


言いたいことだけ言って、お父さんはご飯を口にした。あたしは続けようとした言葉を飲み込んで、その姿を見つめる。


正直、お父さんに怒鳴りたい気分でいた。


だけど、その反対側で、「諦めなよ、こうなったらどうしようもないよ」とあたしをさとしているもう一人のあたしがいたりする。


お父さんのこんなわがままなんて、今に始まったことじゃない。


あたしには最後の最後、あたしが知らなかったらどうにもならなくなるまで決して言わない。そんなこと、今までいっぱいあった。


お父さんの会社の同僚が、部下が、上司が家にやってくるとき。


帰ってくるからと言って終電を逃し、タクシーに乗るのももったいないからホテルに泊まるとも言わず、あたしを夜遅くまで待たせたり。


他にも、いっぱい。それこそ手では数えきれないくらいに。


だから今回だって、お父さんの言うことに従うほかないのはわかり切っていた。


あたしがこれからどんなに、日曜日はお店が忙しいから、あたしが抜けるわけにはいかないんだ、新しい子が入って慣れてないから、パニックを起こさないように手伝ってあげなくちゃならないんだ、何度そう言い聞かせたって、絶対わかってはくれないんだ。


むしろ、そんなことの方が、新しく加わる家族よりも大事なのか、そう言って怒るに決まっている。


なんで怒るの。怒りたいのはあたしなのに。怒っていいのはあたしのはずなのに。


そんなことが、何度も何度もあった。


だから、もう諦めた。


どうしようもない。お父さんが言うこと、決めたことは絶対。あたしはお父さんに逆らえない。


中学校、高校、大学までいって、お父さんにはその費用を出してもらっている。養ってもらっている。


その関係がある以上、あたしはお父さんの言うことに従うしかないのだ。



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