破天コウ!
 ああ、正直に言おう、あのときのおれは半泣きだった、いや、八分泣きだったね。

 本来なら十分程度で済む距離の筈なのに、一時間以上その辺りを彷徨い続けたのだから。

 道に迷うなんていう芸当は、おれにとっては日常茶飯事、鉄板なのだ。

 結論として、そんなおれを独りで歩かせるとなるとこのキャンパスは富士の樹海と何ら変わりないのである。

 おれは迷った。二つの意味で。道に迷ったのは勿論であるが、ここはあの由緒正しき京の都であるからして、衆目の面前で道に迷ったなどと大声で叫ぶというような恥を晒す前にこの場で腹を切ろうかと。

 しかし、小刀を持っていなかったのでそれは断念した。というか、介錯してくれる者も見物人もいないジャパニィズハラキリショウなんてのは真っ平ごめんである。

 まあ、それは冗談として。

 辺りを見回してみると、結構な歴史を感じさせるような建物が並んでいた。研究室だの事務所だの、沢山。

 一応は歴史ある国立大学なので、どの建物にもいろいろな逸話があるのだろうな、伝統って良いなあ、良いなあなどと、方向音痴に次ぐおれのもう一つの特技である現実逃避が既に始まっていた。

 道に迷ったり、仲間からはぐれたりなんかしたら、その場から動くななんて言葉もあるが、動かないわけにはいくまい。
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