破天コウ!
 はははははははははは、いやいやいやいやいや、おほほほほほほ。

 何ぞ、あれ――。

 おれの眼が腐りきったのでなければ、駆けてくるのは巨大なワン公だった。

 黒い。真っ黒い。とにかく黒い。
四足歩行のくせに、その高さはおれの三倍くらいか? ありえないだろ、この大きさは。

 そして極めつけに、何の冗談かは知らないが――そのワン公は頭が三つある。そんな化け物が京の都を走る姿は実にシュール。

 何ていったかな、あれ。地獄の番犬として名高い……そうそう、ケルベロスだ。いやあ、初めて生で見たよ、ケルベロス。たまには良いこともあるもんだ。

 人生まだまだ捨てたものじゃないね、二十年間生きてきて良かった――なんて言ってる場合か、笑えねーよ、おれという名のど阿呆が!

 見たところ、そのケルベロスは思う存分に涎を撒き散らしながら、ご丁寧にもおれだけを見つめて駆けてきやがる。

 と、とりあえず逃げるしかないよな、これは。

 どうして架空の生き物であるはずのケルベロスがこんなところにいるのかだとかは置いといて、とにかく逃げるのが先決だ。

「うあーーーーー!」

 おれは絶叫してから駆けだした。そういえばどうしてだろうか、どこにも人っ子一人見当たらない。
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