第七世界
気付いた時には、目の前にウルの姿がある。

その速さはヴァンパイアが自称では無い事を証明している。

「ち」

攻撃に移ったところで当たらない。

だからこそ、避けようとした矢先、隣からメスが間を縫うように飛んでくる。

近づいたウルが、俺の変わりに後ろへと回避すると、メスが壁へと刺さる。

「怖い怖い。ティーナにそんな速さがあったなんてね」

「急に襲っちゃ駄目だよー。今は話合いをしてるところだよー」

のんびり口調の割りに恐ろしい事を平気でやる。

しかも、どこにメスを潜ましていたのかは謎だ。

「怖いお姉さんもいるしもうやらないわよ」

鬼モードの佳那美とは違い、攻撃的ではない。

「でも、何も考えずに言葉を口に出すのは止めて。恭耶と私の間には大きな壁が存在しているのは事実」

自分から塞ぎ込もうとして、誰も寄せ付けないでいる。

「許せねえ事は許せねえって言ってるだけだ。同情で語ろうなんてつもりはねえ。仲間にしたけりゃやればいい」

「恭耶君、そんな事したら」

「ティーナさん、大丈夫だ。何の問題もねえ。何をしようとも、俺はお前の兄貴をぶっ倒すぜ。俺はお前みたいにやろうとしないで敵わないと決め付けねえ!挫けねえのが俺のモットーだ!」

「解った」

今度は誰も邪魔する事無く、首筋に牙を突き入れた。

「ぐ」

注入と吸飲の感触が同時に襲ってくる。

妙な気分ではあるが悪くは無い、そんなところだろう。

短いのか長いのか解らないが、いつかは終わる。

首筋から牙を抜いて、俺の首筋をウルのハンカチでふき取る。

「これであなたも仲間。後悔しても遅いよ」

「後悔なんてどうでもいいんだよ。こうなった以上は何が何でもやらせてもらうぜ。と、あれ?」

俺の腕が勝手に上へと上がる。

自分の意思を込めてはいない。

「私が兄に勝てない理由がそれ」

俺の体を操っているとでもいうのか。
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