第七世界
林檎を剥くと、歪な形になった。

ウルもとい犬子は林檎を見ながら、何を思っているのか。

「恭耶恭耶」

「何だよ?」

「これ、恭耶みたい。2点」

「人に頼んで2点とは、普通なら神の如く褒め称えてもおかしくないぜ?」

「きゃはは、きもーい。そんな冗談が言えるのは小学生までだよねー。実際、恭耶は2点の人間だよね?」

記憶がないのに知識があるっていうのがな。

多分、一部分の記憶だけがなくなったのかもしれないな。

しかし、俺が2点の人間って、誰に仕込まれたのか。

ちなみに、『犬飼犬子』というネームはティーナさんがつけたらしい。

ネームセンスがあるのかないのかでいえば、ねえな。

まあ、センスがあるないにしろ、今はウルリカである必要はないからな。

「俺が2点って、誰から聞いたんだよ?」

「楓」

あいつ、余計な事を言いすぎだろう。

他の人達も、見舞いに来ているんだろうな。

最初の頃なんて誰が誰かも解らないし、犬子は落ち着いてなかったしな。

今は見たとおりだ。

その内、何かを思い出すかもしれねえな。

それが、不幸か幸福かは解らないけどな。

「じゃあ、2点の俺が林檎を頂く」

隙を狙って奪い取ったが、高速の腕によって林檎が奪い返された。

こういうところは、ヴァンパイアなんだよな。

「林檎を食べたい乙女心を傷つけるなんて外道だね」

「林檎を剥いた男心を傷つけるのは邪道だろ」

まあ、その内、自立できるようになるだろう。

俺は窓の外を見ながら考える。

家に帰ったら、小さな巨人が作った邪悪なパンが待っているのだろうと。
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