第七世界
「鷹威君」

目の前には、佳那美の顔がある。

笑顔だ。

笑顔だが、目が笑っていない。

悪寒を感じていると、腕に痛みが走る。

掴んだ腕の力は女のものではなく、骨が軋む音を立てているようだ。

「おいおいおいおい!火傷の次は骨折させるつもりかよ!」

「あ、ごめんごめん。力の加減、忘れてたよ」

佳那美が腕を放すと、腕はうっ血したように後がくっきりと残っていた。

「聞きたかったんだけどよ。何でお前がそこまで怒るんだよ?」

「うーん、何か、イチャイチャを目の前で見せられるのはねえ。それに、鷹威君の作戦に失望したから」

完全に俺が悪い事になっているようだ。

「俺は、約束を守った」

予想外の人物はいたものの、店に食いに来いという約束は守ったはずだ。

「え?」

「それに、やましい事がない事を証明するために店に来たわけだよ」

段々と、苛立ちが募っていく。

「なあ、俺はお前の何なんだよ?」

「私は」

佳那美は言葉に詰まっていた。

「俺は、お前の玩具じゃねえんだ」

「鷹威君は、私の事、嫌い?」

「何でそうなるんだよ。嫌いなんて一言も言ってねえだろうが」

佳那美は、情緒不安定だ。

「そう、なんだ」

狂気の微塵も感じられない、悲しげな声を上げた。

怒っている原因。

俺と美祢がデートするからだろう。

何故、俺と美祢がデートする事で怒るのか。

他人と仲良くする事が嫌、という事なのか?

でも、刹那と一緒にいると怒らない。
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