第七世界
保健室には佳那美の姿がなかった。

ベッドは綺麗に直されている。

「A型RHマイナスだな」

RHマイナスというのはよく解らないが、使いたくなったので言ってみたりする。

それより、佳那美を探さなければならない。

看病してくれた礼は言っておきたかったからだ。

広く、果てない校舎の中を走って見回る。

布団を触った時の暖かさ、かすかな残り香、まだ遠くには行ってない。

好んで残り香を嗅いだなんて、口が裂けても言えやしないがな。

性癖を露呈させるよりも、探すことに集中しよう。

帰るとなれば、靴箱に向かってるはずだ。

今日の体力は1%程度しか残ってないが、走って行くことにした。

「はあ、はあ、先を考えただけで3秒で疲れる、ぜ」

息を切らしながらも、靴箱に急いだ。

数分後。

「くそったれが!ちょっとは短くならねえのか!いくら走ってもつかねえ!」

反吐が出そうになる始末。

喉元まで反吐が上がって着そうになった頃に靴箱に到着。

「とりあえず、周辺を探索しよう」

他に気配がないから見つけやすいはずだが、いつまで経っても見つからなかった。

もう帰ったんだろうか?

「はあ、礼を言いたかったな」

俯き加減で今日は諦めた。

夜の帳がおりた世界で、悲しい思いを胸に馳せながら家路に着く。

帰り道には小さな公園がひっそりと佇んでいる。

小さい頃は公園でよく遊んだものだ。

滑り台、ジャングルジム、シーソー、砂場、楽しかったな。

「あれ?」

その時、一人だったか?

もう一人、俺と一緒に遊んでた子がいたような。

気のせいか?

思い出せない。

少し前の記憶すら思い出せないなんて、老化現象が早すぎる。

何度思い出そうとしても思い出せず、気持ちが悪いまま家に帰った。
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