第七世界
四つんばいになりながら、痛さで立ちあがれない。

そこで、女性が引越しの箱を持ってきた。

「君の分だ、部屋に適当に置いといてくれ」

業者もいるし、女性も力が凄い。

果たして、俺が手伝う必要があるのだろうか?

自問自答しても答えなんか出なかった。

まったくやる気のない顔をして箱を運んでいると、女性が俺の尻を蹴飛ばした。

「他人を不快にさせるような顔をするんじゃない」

女性は何もせずに、見守っているだけである。

不当な扱いすぎて、涙すら出てくる。

大きな不満を抱きながら、自暴自棄になりながらダンボールを運ぶ。

これが楓と俺の出会いだ。

最初の印象が最悪だったが、今では感覚が麻痺して普通だと思い始めている。

「君は回想のセンスがゼロだな」

ほら、慣れなきゃ人生やっていけないんだよ。

「で、俺は何をすればいいんだ?」

「二つ選択させてやろう」

「はあ?二つ?」

「私の彼氏役をするのか。見合いの場を破壊するのかのどちらかだ」

「後者でよろしくお願いします」

一時的とはいえ、楓の彼氏ともなるとどんな事を要求されるのか分かったものではない。

「君にしては、面白い選択をしたな」

楓が薄気味の悪い笑みを浮かべる。

「どういう事だよ?」

「相手方は吸血鬼だ」

「は?」

「まあ、君ならば腕の一本くらいで済むかもな」
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