第七世界
しばらくは車の中で談話をしながらも、目的地に着いたのは夕刻が迫ろうとしていた時であった。

刹那の転校の件については聞けなかった。

何故なら、ティーナさんが刹那に話しかけていたからだ。

「ふう」

背を伸ばしながら車を降りる。

周囲は森と草木に囲まれている里のような場所だ。

田舎といってもいいだろう。

「楓、お前、こんなところから出てきたのか?」

「何か問題でもあるのか?」

「昔のお前がどんな奴か、少し興味がわいてきたぜ」

「余計な詮索は必要ないな」

楓は自分の見知った道を歩いていく。

俺達は楓の後を続くしかなかった。

自然の風が心地がいい。

しかし、夕刻とはいえ夏なので、生ぬるさは抜けない。

夕蝉の声も、夏の風物詩といっていいだろう。

周囲には田畑が並ぶ。

「何もない場所だな」

「都会暮らしの君は田舎での遊び方を知らないのも仕方ない」

「知りたいとも、思わなかったりするけどな」

田舎にはたまに帰るのはいいが、暮らすとなれば話は別だ。

多分、不便さが勝って、早く帰りたい気分になるだろう。

正直、田舎で暮らしたいという奴の気がしれない。

老人になった後に、余生を田舎で暮らすのなら丁度いいとは思うがな。

「君をここに置いてけぼりにするのも、悪くはないな」

「おいおい、卒業どころじゃなくなるだろうが」

「君は卒業できるとでも思ってるのか?」

「楓、お前、一応教師だろうが」

「一応とは失礼な奴だ」

俺と楓の会話を尻目に、後ろにいる二人は仲が良くなっているようだ。

刹那、ティーナさんと楓を取り替えてくれ。
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