第七世界
「待って!名前くらい聞かせてや!」

すがりつくように、身体が前に出る。

「礼の一つも出来ん者に名前を教える必要はない」

(こいつ、しばいたろか)

刹那は殴りたくなる衝動を抑えて、額をぴくぴくさせる。

恩を仇で返すようなことだけはしたくない、そんな気持ちがあった。

「あ、ありがとう。名前教えてくれへんかな?」

「乾光蔵だ」

刹那の中にある助けてもらった時に見たイメージは去っていた。

「今夜は風が強い」

乾は学ランを脱ぐと刹那に投げる。

そして、Tシャツのまま去って行く。

乾が制服を寄越したことによって、刹那は自分が下着だという事を思い出す。

「うわ!大切にしてた服やのに!」

恭耶に会うためにおめかしした服は、一夜にして無残な形となってしまった。

身を隠すように、学ランを上から羽織る。

まだ寒さの抜けぬ中、それで少しだけ凌げた。

「無性に腹立つ奴やったけど、根はええ奴なんかな?」

乾の株は上下を繰り返す。

「ま、ええわ。はよ帰ろ」

寝ている親父達の腹に蹴りを入れて、公園から逃げるように出て行った。
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