第七世界
梓さんに猫のように首根っこをつかまれて、佳奈子さんは風呂場から退場した。

「やっと、ゆっくりできるな」

ゆっくりしているような気持ちにはならない。

「風呂に入ってるのに、あんま気持ちよくねえ」

後のことを考えてさっさと出るべきだろう。

のぼせているわけではないのだが、頭がクラクラする。

シャワーで髪と体を洗い、風呂から出る。

布が肌に張り付くような感触は消えたが、障害は出たままだ。

「はあ、はあ、とんでもねえ」

血を飲めば楽になるだろうが、飲む気はない。

こうするしかなかったのだと自分に思い込ませるしかないのだ。

「じゃねえと、あいつを止められなかっただろうからな」

「仮面の男、か」

「楓」

楓が立っている。

「お前には、筒抜けか」

「君は、本当に馬鹿な男だ」

「馬鹿でも何でもいいぜ。俺はさっさとお芝居終わらせて、ちゃんとした授業を受けなくちゃならねえんだよ」

そういえば、楓は『俺』と知り合いのような素振りを見せていたな。

「あの男に、私は修行を受けた」

「は?何でまた」

「私は強くなりたかっただけさ」

「十分強いだろ」

「昔は病弱だったのさ」

「恐竜も逃げ出すくらいのナリして何言ってるんだよ」
< 252 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop