第七世界
「いてて」

刹那は俺のほうを向くことなく、箸を進めている。

これ以上、弁当箱に近づくことは危険だ。

今から学食にいっても、いい物は残っていないだろう。

しかし、高校生にとって昼食を抜くというのは非常に厳しいものがある。

六限まであるので、授業に集中が出来ない。

立ち上がり、肩を落としながら学食へ向かう。

「何で自分の分だけなんだよ」

実はこうなることを予期して、俺の分を用意してなかったのではないか。

お腹が減ってる分、ネガティブな思考になってしまう。

「はあ、世知辛い、実に世知辛いぜ」

「うんうん、そうだよね」

学食で販売されている納豆パンを齧っている俺の前で、犬子が平然とカレーライスを食べている。

俺は一人で食べたかったのだが、犬子は俺の姿を見つけるなり突撃してきたのだ。

「刹那の奴、少しくらいの優しさってものがないのか」

「恭耶が今後馬鹿な事をしないようにちゃんと躾をしてくれる優しさくらいは持っているとは思う」

カレーライスを一口一口、美味しそうにゆっくりと食べる。

「傷ついた俺の心に塩を塗るなよ」

「恭耶が真人間になるチャンスじゃん」

俺が納豆パンを食べ終える頃にはカレーの半分がなくなっている。

「いや、すでに真人間だから、その残りのカレーを少し分けてくれないか」

犬子は俺の目を見つめ、無言でカレーを食う。

「おい、俺の話を聴いているのか」

「自分を理解していないからね。残念だ」

気づけば、俺の意思とは逆の方向に突っ走りカレーはなくなっていた。
< 290 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop