第七世界
付き合うという言語を忘れさせるために、話を変える。

「たまには屋上で物思いに耽ようかと思ってね」

風になびく髪を片手で抑える。

一体何を考えるというのか。

もしかして、卒業も近づいてきたから、アンニュイな気分になったのかもしれない。

「三年ももう終わりだしな、これからどうすんだい?」

「美を追求する道に進もうかと思ってるかな」

「美?」

就職するのか、進学するのかを聞いたつもりなんだがな。

「人は年を取れば美が損なわれる。でも、私は年をとったとしても美を損なう事を抑える技術を身につけたい」

信念すら感じる。

「人は死ぬまで美しく生きたいものよ」

人の努力でも限界はあるしな。

「なんでそこまで美しい事に拘るんだ?」

「年を取った時に他人にどう見られるかという恐怖があるから、恐怖を少しでも和らげるために足掻きたいわけ。その事に関しては、私はどんな事でもするわ」

性格がよければ、ずっと人はついてきてくれるとは思う。

しかし、それは本人が求めている言葉とは違う。

人に迷惑をかけるつもりでもなさそうだし、好きにやればいい。

「いいんじゃねえの、目的をもって生きていける事はなかなかできんしな」

なんとなく生きていく人間のほうが世の中に多いような気もするしな。

しかし、あんまり会話したことのない人間に、ここまでよく語れるものだ。
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