第七世界
「一人で、帰るか」

取り残された俺は一人で下駄箱まで向かう。

「あ、鷹威君」

廊下を歩いている途中で声をかけられる。

背後には見た目は人間の女が立っていた。

「お前かぁ」

出会った当初ならそこはかとなく嬉しい相手だったろう。

しかし、今となっては恐怖と悲しみに支配されてもおかしくない相手だ。

そう、吸血鬼の佳那美である。

「何、その残念そうな声は」

「残念だろ?いつ殺されるかわからねえんだしよ」

「今の君なら殺しがいありそうだね」

殺すという行為を本気になれば武器なしで出来てしまうのだから恐ろしい。

「あのな、お前、普通の生活を送りたいんだろ」

「だって、あまりにも鷹威君が失礼だからね」

俺だってあんまり関わりあいたくないのに、普通に出てくるんだから失礼しちゃうわ。

鷹威の血に目覚めたから好戦的になって、お互いに強弱をつけるなんて馬鹿な話だ。

お互いにある程度は普通に生きたいという気持ちがあるのだ。

そして、傷を負えば痛いのだ。

痛覚があって、無敵でもない。

誰が必要以上に痛い思いをしたいんだ。

逃げたいが逃げるわけにもいかず、俺は佳那美と二人で帰る事となった。

「なあ、お前んところはどうなったんだ?」

校門に近づいてきたところで、俺は聞いた。

「何が?」

「学園祭の出し物の事だよ」

佳那美がお化け屋敷に出たら、面白そうな気がする。
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