第七世界
「わかったな?期限は一日だ」

「わかった」

俺は電話を切って、乃亜の懐に直した。

「恭耶、どさくさにまぎれて何をさわっとんのや?」

「俺は男で下心もあるかもしれないが、こんな時に下心なんて出すかよ」

今感謝しているのは、乃亜の体に触れている事ではなく、刹那の料理を食べなくて済んだということだ。

「刹那、お前もさ、この乃亜の状況を見て、何か思う事はないのか?」

この際だから、気絶同然の乃亜を見て反省してほしい。

「気絶するほどに絶品やっちゅうことやろ?」

刹那の思い込みは俺よりも格段に上だ。

それか、本当に眼科に通ったほうがいいかもしれない。

「これのどこが美味しそうな顔なんだよ?」

どこからどう見ても、絶望に支配されているとしか思えない。

「あかん、恭耶は何もわかってないわ」

「料理に対してお前よりはわかっているつもりではあるぞ」

「この料理を食べた後に食べる料理に対して、本気で感謝するんやで」

不味い創作料理を作っているのは天然ではなく、計算ですといっているような物か。

それか、創作料理を本気で作ったけども、不味いと分かっていて食べさせている事になる。

どんな詐欺師にも勝る詐欺だ。

しかし、不味いと分かっている時点で味見をしている点においては、微妙に評価してやってもいい。

わけがあるか。

「お前な、味見して不味いと思った時点で、ストップしろ。そこで変に意地を張って進めようとするから悪化していく一方なんだろうがよ」

「恭耶にボクの努力なんてわからへんのや」

乃亜の状況を見て努力しているというのであれば、大抵の人間はお気楽に暮らしていける。
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