第七世界
乾光蔵が住む家は古くからの武家屋敷である。

近所の中でも大きく、離れには剣術指南するべき道場もある。

光蔵の部屋はシンプルであり、畳の上に机と箪笥があり、壁には制服と『空空寂寂』と書かれた掛け軸がかかっている。

朝六時。

光蔵は目覚ましもなく、自然と目を覚ます。

約三時間の睡眠でも、惰眠を貪る事はなく眠さを見せない。

体が覚えているのだろう。

襖を開き廊下へと出て厠へと向かう。

「兄様兄様」

途中で光蔵を呼び止めたのは、緑の着物を身に着けた少女であった。

背中まである髪を結い、細い目をしている。

「萌黄か」

足を止め萌黄に振り返る。

「今日も稽古をお願いしたいですの」

光蔵に懐いている萌黄という少女は目にやる気を宿している。

「道場で待っていろ」

萌黄と訓練する事は、光蔵自身の成長にもなるために断らない。

「はい!」

萌黄が嬉しそうな顔をするものの、光蔵は表情を変えることなく厠へと向かう。

光蔵が道場の戸を開けた時には萌黄は胴着を着用しており、正座をして精神統一を行っている。

光蔵が来たことを悟ると、回れ右をして一例する。

先ほどの嬉しそうな顔はなく、真剣そのものであった。

光蔵は学生服のズボンと上はシャツという出で立ちで、萌黄と合間見える。

互いに持つのは木刀であり、一つ間違えれば怪我をしかねない。

だが、それを承知で萌黄は光蔵に頼んだのである。
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