第七世界
俺が倒れてから、爺が勝手に話を始める。



あるところに商売をしている夫婦が住んでいた。

妻と一緒に店を盛り立てながら、しっかり売り上げを稼いでいった。

それは、店の商品を好きで買ってくれる人達もそこそこいたからだ。

だが、悲劇は突然起こった。

妻が車と衝突し、交通事故を起こしたのだ。

妻は即死だったらしい。

妻を失ってしまった夫の心は時を刻まなくなった。

そこから、店も寂れて、商品を好いていた客も離れていく。

最初はお客さんも心配してくれていた。

だが、夫はお客さんに答えられず、殻に閉じこもったままだった。

その内、客達は完全に離れ、夫は一人になる。

夫はそれでもいいと思った。

全ては結果で、一人で朽ち果てていくのも運命なのだ。

肉体は衰弱していき、孤独死寸前まで近づいた。

このまま死ぬのか。

妻のところに逝けると、嬉しくも悲しくなった。

だが、まだ終わりは来なかった。

ある日、朦朧としてる意識の中で一人の少女が店に尋ねてきた。

その少女を見て、夫は驚いた。

少女は妻の面影を背負っていたのだ。

少女は夫に言う。

「ここの物は良い物ばっかりだね!ぴかぴかでどれもが生きてるようにも見えるよ!」

驚きと安らぎで夫の頬には涙がこぼれてきた。

妻の面影を背負った少女は、妻と同じような事を言ったのだ。

夫は思う。

これは、妻から『生きている物達を見捨てて死ぬな』というメッセージなのではないのか。

少女が夫に一筋の光明を見せたのかもしれない。

そして、少女は手に持っていたのクマの人形を夫に見せる。
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