第七世界
「これを持ってるとね、誰もが幸せになれるんだよ」

「お嬢さんは人形を持ってて幸せかい?」

誰にも口を開く事のなかった夫は、少女に問いかける。

「うん、お父さんもお母さんも笑顔でいてくれるから幸せ!」

不思議と少女の言ってることを信じる事が出来た。

「ボクの宝物だけどあげる!」

突然、少女は幸せの象徴であるクマの人形を夫に差し出した。

「いいのかい?お嬢さんの大切なものなんだろう?」

「うん。でも、世界の皆が幸せになれば、笑顔の絶えない世界になるから」

夫は胸を打たれた。

少女は妻ではないが、妻のようにしか思えなかった。

それが、心に癒しをもたらし、救いになったのかもしれない。

「ありがたくもらうよ、お嬢さん」

「うん!これでおじさんも幸せになれるね」

夫の微笑みが嬉しかったのか、少女も笑顔になる。

「ああ、おじさんはとても幸せだ」

「よかった!じゃあ、ボク帰るね!」

少女は名前を告げることなく、帰っていった。

その後、少女は二度と姿を現さなかった。

だが、夫は一からやり直そうと決意することとなったのだ。

ここで死ねば、妻からのメッセージを無駄にすることとなる。

本当かどうかは定かではないが、夫はそう思ったのだ。



「おしまいじゃ」

じいさんは目を閉じながら、思い出し泣きをしているようだった。

夫が爺かどうかなどどうでも良かった。

俺には人を感動させようっていうわざとらしい話にしか思えない。

もしかして、俺って荒んでいるのか?

「うう、ええ話やわあ」

隣では、爺と同じく感動に浸っている刹那がいる。

「おいおい、今ので泣けるのか?」

「恭耶は心が黒いから涙がでえへんねん。ほんま、血も涙もない男やわ」

お前の台詞のほうが邪悪だと思うぞ。

「お前なあ、おかしいと思わないのか?」

「何がよ?」

「そんな大切な物を商品として売っているんだぞ?妻の面影を背負った少女から貰ったっていうのなら、ずっと傍に置いときたいんじゃないのか?」
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