第七世界
「へえ、怖くないんだ?」

「俺を誰だと思ってやがる、腕が屈強になったところで殺されるなんて誰が決めた?」

「四天王の一人に負けてたのにね。そういうのを虚勢って言うんだよ?」

「あん時はたまたまだ、たまたま」

「じゃあ、今日もたまたま殺されるんだ?」

笑った直後、佳那美がゆっくりと動き始める。

「逃げてもいいよ?どっちにしても、引き裂いて終わりだからさ」

拳銃とかあれば、多少は楽になるんじゃないか。

それだと俺も殺すのが好きみたいになるじゃないか。

拳でどうにかするしかねえ。

気付けば、佳那美が大きな手を振り下ろす寸前だった。

「ち」

俺は横に飛んで避ける。

佳那美の手は屋上の床に突き刺さっている。

「ひゅう、なんちゅう腕力」

額に冷や汗が流れる。

「避けるなよ。肉片にならないなんてつまらないじゃない」

「本当に、今日だけなのかよ?」

「そうだよ。今日は、人間が変になるところが見たいんだ」

「嘘付け、どうせ満月の日には他の奴も殺すんだろ?」

「誰かに会えば、そうなる可能性は大きいね」

頭の中で瞬時に状況の計算を行う。

腕の速度は速い。

避け損なう事のほうが大きい。

そして、屋上には何もない。

不利というか、絶望的だな。

「いいか?俺は逃げるんじゃないぞ?これは、戦略的撤退と言うんだからな」

「ふうん、いいよ。数秒待ってあげるから、戦略的撤退すればいいよ」

佳那美は動く気配がなく、俺は急いで屋上から校舎へと入った。
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