第七世界
「誰だか知らないけど、邪魔するのはよくないよ」

「巌鋼体」

仮面の男が両足を開いた瞬間に、佳那美も横から爪で切り裂こうとする。

佳那美の爪は確実に仮面の男を捕らえている。

だが、仮面の男の腕に当たっただけで、止まってしまった。

「あれ?おかしいな」

何度押し込んでも、無意味な行為に見えてくる。

仮面の男は脇を占め肘を折り曲げて両拳が前を向くように出しており、腰を少しだけ下げて、動く気配がない。

巌鋼体は、体を鋼鉄のように硬くする技なのかもしれない。

「じゃあ、前から刺しちゃおうかな」

爪を離した事が、佳那美の誤算だった。

「螺旋掌」

仮面の男が一歩踏み出すのと同時に後方の足を回転させ、足から腰、腰から上半身、上半身から腕、腕から掌に回転を伝えていき、放ったエネルギーを佳那美にぶつける。

咄嗟に佳那美が豪腕で防ぐが、莫大なエネルギーは止められなかった。

佳那美を軽く後方へ吹き飛ばし、床に叩きつけた。

仮面の男は衣服を正し、佳那美の元へと歩いていく。

「へえ、君、面白いね」

佳那美は平気な顔をして立ち上がる。

しかし、豪腕の血管からは血が吹き出ており、完全に折れている状態だ。

仮面の男は語らない。

「こんな傷、すぐに治るよ」

仮面の男からは余裕を見せる素振りはなく、トドメを刺すために近づく。

「しょうがないな」

もう一本を豪腕に変えようとすると、行動させる前に腕を掴んで身動きを取れなくする。

「君、私を殺すの?」

仮面の男は語らない。

「ふぐ!」

喋らせないためなのか、口元を掌で抑える。

「今は、これで抑えられる」

ボソリと一言だけ伝えると、口元からも腕からも手を離した。
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