第七世界
刹那の部屋の前の扉には『刹那の部屋』と明朝体で書かれたプレートが下ろされている。

その下には、『勝手に入ると撃墜す』の張り紙が書かれてあった。

どんな風に撃墜するのか気になる。

「刹那、入るぞ」

扉を開けると、ベッドで寝ているピンクのパジャマを着た刹那が、抱き枕のメロディーちゃんを両腕と両足でヘシャゲルほど絞め殺していた。

メロディーちゃんとは、兎の耳に虎の尻尾、熊の腕にワニの足、胴体はドラ〇モンのキマイラよりも強そうな化け物だ。

ちなみにつぶらな瞳をしており、人を襲いそうにはない。

どうしてこれを商品化しようとしたのか、俺には理解が及ばねえ。

幸運のクマさん人形は、棚の上に丁寧に飾られていた。

「おいおい、メロディーちゃんに恨みでもあるのか」

人気のないマスコットキャラが痛々しく見えてきた。

しかし、寝ているところを邪魔すると、本当に没落しそうだ。

それに、余計な時間を刹那に費せば楓に学校の行事を増やされることになる。

「一体、何なんだよ」

今日は平日だっていうのに、教師が生徒に学校を休めとはどういうことだ。

「まあ、絶対に何かあるよな」

滅多にない出来事が待っていそうな気がする。

それもろくでもないような事だ。

「恭耶、何してるん?」

刹那が、眠そうに目をこすっている。

「げ、起きたのかよ」

「『げ』やあらへん。張り紙見えへんかったんか」

「お前の背丈と一緒で文字が小さ、ゴフ」

俺の腹には刹那の寝起きの拳が決まっていた。

「おま、メロディーちゃんの二の舞にするつもり、か」

「メロディーちゃんは大喜びや!」

メロディーちゃんは抱きしめられすぎて、形が戻らなくなっている。

「そんなアホな」

泣きそうなメロディーちゃんの気持ちが解り、心地の悪い一日が始まったようだ。
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