Tactic
今まで温もりを感じていた手が、一瞬にして冷たい空気に晒された。


あ……どうしよう。

振り払ったことに悔いていたら、智也は切ない表情で自分の手を見つめていた。


「汚ぇだろ、俺の手。……さっさとそこどいて、風呂に入らせてよ」


ズキッと、胸の奥が痛んだ。何も言えず、ただ呆然と突っ立ったままの私。

どうしたらいいか分からなかった。


二人の間を智也は割って入り、玄関のドアに向かった。
振り返らずにいた智也の背後から先輩が言葉を投げかける。


「オレ、若宮送ってくるから」


「どうぞ、ご自由に」


智也はすぐさま家の中へ入っていった。

閉じられたドアの音が、静かな住宅街に響く。


< 141 / 305 >

この作品をシェア

pagetop